★鎌倉淡水魚紀行★ 春の谷戸・ホトケドジョウの繁殖期に密着
鎌倉にもやっと春がきました。
ちょうど1週間前(2018年3月21日)、まさかの名残の雪に拍子抜けしたものの、その後の「春」の追い上げは凄まじく、その雪色から一転!たった1週間で春色へと変貌を遂げたのでした。
まだまだ冬ごもりな私でしたが、里山に咲きほころぶサクラを目にし、摘んだヨモギで作った草餅を口にし、鑑賞と賞味の両方が達成され、やっと春を実感する事ができました(私は花より団子派ですが)。
さて、今回の舞台は、鎌倉市西部(腰越地区)にある “鎌倉広町緑地” の谷戸、
鎌倉三大緑地(台峰、常盤山、広町)の1つで、その中でも最大で41ヘクタール(41万平方メートル)の面積を誇ります。谷戸(やと)とは、小高い山や丘陵に囲まれ細長く続く谷のことをいい、ここ鎌倉では多くみられる地形の一つです。ここを水源として小さな小川が流れ、周辺にはいまだ田園風景や湿地帯が広がり、多くの動植物を育んでおります。
ホトケドジョウはこの様な谷戸の小川を好みますが、近年急激な都市化が進み環境破壊により激減、全国規模(特に都市化がすすむ地域)でも希少種になりつつあり、ここ鎌倉からみれば「絶滅危惧種」といっても決して大げさではないでしょう。そんな広町緑地は、鎌倉市内でも数少ないホトケドジョウの生息場所の一つとして知られております。
さて、今回の記事では、その鎌倉谷戸に生息するホトケドジョウの繁殖について触れたいと思います。日本の生物の多くは、繁殖期に春を選びますが、それはドジョウに関しても同じです。ここに生息するホトケドジョウの繁殖は4月~5月ぐらいとされますが、ただ観察に適しているのはやはり4月となります。5月になると草が生い茂り、暖められた湿地帯はまさに蛇の温床となり、シマヘビやアオダイショウならともかく、マムシのような毒蛇も生息しているので迂闊に入り込めません。ヘビは人間の存在に気づけば大抵は逃げてくれますが、この手の観察は辛抱強くその場でジッとしている事が多く、一旦自然に馴染んでしまうと、人間もヘビや草と同様に自然と化して、全てがゴチャ混ぜになるのです。ヘビも人の気配に気づかず、足元をスゥ~っと通り過ぎる場面もしばしば。背筋が凍る思いをどれだけしたことやら・・・、なので4月が良いのです。
興味のある方は、川沿いを可能な限り歩いてみるといいでしょう(立入禁止区域はダメです)。人の気配を感じると泥の煙幕を出して雲隠れしたり、セリの根元がモゾモゾ動いていたり、何かと生物の気配を感じる事ができます。勿論、繁殖期となれば、大きな親魚達がそれなりの群れを成すので、その存在感は十分すぎるほど、ドジョウたちの生活史において毎年この時期は一大イベントなのです。
ホトケドジョウが産卵に選ぶ場所は、水深が10センチも満たない浅場で、かつ外敵からすぐに逃げれるような所、かつセリや草の根が多く根回りが深くエグれ、タモ網すら入れられない・・・こういう場所を産卵場として好むようです。急な影の動きや物音には敏感ですが、暫くその場でじっとしていると、ドジョウもリラックスして時折、根から顔を出したり、ドジョウ同士が絡んだりする場面も。むしろこの時期のドジョウは繁殖行動の方に夢中なので、その場に馴染んでしまえば、人間の存在もあまり気にしないようです。
今回は観察の為、一時的に飼育ケースに採取しましたが 撮影が終わったら速やかに、かつ元の場所にそっと返してあげました。
それから1週間後・・・
かつてのお祭騒ぎな気配は終わり、何事もなかったように平穏な小川に戻っておりました。
そして盛夏になる頃には体長2センチほどの幼魚が見られるようになるでしょう。純朴で猜疑心がない幼魚たちは容易に捕れることから、生物採取を楽しむ子供たちにとって格好の獲物となり、バケツ中を賑わせてくれる事でしょう。
こうして子供達が自然や生物に接する事、これが自然の大切さを理解する機会だと思っております。観察とふれあいを楽しんだら、速やかに元の場所に戻してあげましょう。
編集後記
今も手つかずの自然が残る広町緑地ですが、かつては宅地開発の計画が持上がり、開発と保全をめぐり議論がなされました。2000年代に入り鎌倉市は「緑の基本計画」で「都市林公園」にして自然を残す事を決定。開発が予定されていた事業用地を鎌倉市が買取り、市民活動団体等と市の協力で保全に向けて大きく前進しました。そのおかげで現在も人の手が入っていない自然が残り、開発を逃れたホトケドジョウが今も生き延びております。
私の幼少期を過ごした昭和晩期(昭和50年代)には、昔ながらの田園風景がアチコチに広がり小川には多くのホトケドジョウが生息しておりました。しかし平成に入ると、急激な都市化が進み環境破壊によりホトケドジョウは激減、全国規模(特に都市化がすすむ地域)でも希少種になりつつあり、ここ鎌倉からみれば「絶滅危惧種」といっても決して大げさではないでしょう。